新人OLはつらいよ
この記事はドラフト前の4月に出ていたものですが、新人ラインマンの大変さが書かれていて、なかなか面白かったので、紹介してみたいと思います。
当たり前ですが、新人OLと言ってもオフィスで働く女性ではなく、NFLの攻撃ラインマン(オフェンシブ・ライン)のことです!
登場人物の紹介
OT ライアン・ハリス
2007年のドラフト3巡指名。4チームで通算114試合に出場、71試合に先発。2015年に先発LTライアン・クレイディが怪我でシーズンエンドになった後、ブロンコスと3回目の契約をして、第50回スーパーボウルにも先発した。今年の3月に引退。
OT タイラー・ポロンバス
2008年のドラフト外。5チームで通算112試合に出場、57試合に先発。2015年シーズン中にブロンコスと1年契約して出戻り、優勝に貢献して引退。今年から地元ラジオ局で試合の解説をする。
元記事(デンバーポスト)
Life as a rookie offensive lineman can be brutal
ライアン・ハリスは2007年のドラフトで指名された。その日の記憶で、もっとも良く覚えているのは、映画の「ゴッドファーザー」シリーズ、近所のうるさい人、デイリー・クイーンの3つだ。
「その年はドラフト1巡指名が終わるのに6時間半くらい(史上最長)かかった」ハリスは言う。「私は映画ゴッドファーザーの1作目を観るつもりにしていて、それを見終わるころには1巡指名が終了して、自分が指名される頃合いになるだろうと思っていた。私はゴッドファーザーの2作目を観終わると家から脱出した。近所の人が1時間ごとに”もう指名されたか?”と聞きに来ていたからだ。私はデイリー・クイン(ファースト・フードの店)に向かった。そして、その道中に電話が来た」
その電話は、マイク・シャナハン(当時のブロンコスHC)と、テッド・サンドクエスト(当時のGM)からだった。ふたりは3巡指名の新しいラインマンを祝福した。
その日を境に、ハリスの人生は大きく変わった。彼はその変化を予期していた。しかし、プロのサイズ、スピード、ゲーム理解がどれほど違っているか、彼はまったく準備できていなかった。
「まったくダメだった」ブロンコスの元OTタイラー・ポロンバスも同意する。「OTAの最初の週を経験すると、肉体的にも、メンタル的にも、溺れて必死に泳いでいるかのようだった」
攻撃ラインマンの学習曲線は険しい。もしかしたら、すべてのポジションでもっとも険しいかもしれない。新人ラインマンは、新しいチームメイト4人と一体になるため、身体的にも、メンタル的にも、これまで知っていたすべてをオーバーホールして見直さなければならない。
ブロンコスは、レフトタックルを必要としており、今年のドラフト1巡で即戦力を指名することが予想されている。指名候補として、ウイスコンシン大学のライアン・ラムチェック、ユタ大学のギャレット・ボールズ(指名)、アラバマ大学のキャム・ロビンソンといった名前が挙がっている。
誰が指名されるにせよ、プロの攻撃ラインマンになるのは簡単なことではない。経験者の話を聞いてみよう。
自信のない奴は、生きたまま喰われる
タイラー・ポロンバスは、自分がどれほどフットボールに関して無知なのか、すぐに思い知らされた。彼は身長6フット7インチ、体重305ポンド、コロラド大学出身のラインマンで、2008年にドラフト外でブロンコスと契約した。
彼には恵まれたサイズがあり、それを活かせる知性もあった。
「だけど、プロのメンタル面、チーム施設に毎日10時間から12時間いて、どれだけ多くのことを学ばないといけないかを知る。それはとてつもなく大きかった」ポロンバスは言う。「そして、自信に関して。そう、チームにいる選手たちは全員、自分がこれまで対戦してきたどんな選手よりも優れていることに気がつく。しかし、それでも、自分にもそこにいるだけの理由があるはずなのだ」
彼は身体面よりも、知性面の対応がより必要だった。プロ生活の最初の日々は、練習での1対1のバトルと、その後、頭の中のバトルに消費された。彼は男たちの中に混ざっている子供だった。
トレーニング・キャンプの真ん中あたりで、彼はようやく自信とチームでの居場所を感じられるようになった。最終ロスターに残った時、その自信はより強くなった。彼はバトルで負けず、コーチに毎日どなられもしなかった。彼はただの新人ではなかった。
「敵チームは、こちらが不利な状況でどんな対応をしてくるか試してくる。相手が誰であれ、それが試合の70%を占める」ライアン・ハリスは言う。「攻撃ラインはユニークなポジションだ。成功するためには、5人がお互いをよく理解し、一緒にプレイしなければならない」
ポロンバスは、新人シーズンに少ししか出場しなかった。しかし、翌2009年には、ライトタックルで8試合に先発した。
ハリスは、2年目にフルタイムの先発になった。しかし、試合の重力を感じられるようになったのは3年目になってからだった。
「自信はいろんな方面から得られる。NFLで攻撃ラインとして成功するためには自信が不可欠だ」ハリスは言う。「他の選択肢はない。もしボン・ミラーののような選手と対戦するなら、やれるという自信が必要だ。そうでなければ、生きたまま相手に喰われてしまう(酷い目にあわされてしまう)」
ブロンコスの先発OGマックス・ガルシア(2015年の4巡指名)には、そんな時間の余裕は与えられなかった。フロリダ大学で攻撃ラインのほぼ全ポジションを経験した後、プロの新人シーズン第12週のペイトリオッツ戦で先発した。2年目の2016年には、全試合に先発して攻撃の全スナップをプレイしている。
「16試合プレイしたのは初めてだった」ガルシアは言う。「それは大きな負担だった。シーズンは長い。今は身体的、精神的にどうやって準備すればいいか理解している」
プロ3年目、多くのラインマンが自分の能力を発揮する時に、ガルシアは新しいコーチと攻撃システムの下で、違うポジションをやることになる。そして、25歳で頼れるベテランになることを見込まれている。攻撃ラインマンの仕事が簡単になることは稀だ。
ディファレント・ゲーム
ドラフトの時期になると、いわゆるスプレッド・オフェンスを経験してきた選手の評価が話題にあがる。サイズ、スピード、経験などを排除すれば、基本的な事実が残る。大学の攻撃ラインマンは一般的に、プロとはまったく違うゲームを学んでいるのだ。
「スプレッド・オフェンス、あれはうまく変換できない」ハリスは言う。「それはイタリア語の国でスペイン語を話すようなものだ。似ている部分はあるが、ほとんどは完全に違う言語だ」
ラン攻撃におけるラインマンのスペースが違う。求められるフットワーク、アングルも違う。プロのラインバッカーに対応するアウェアネス(意識)も必要だ。
「地面に手を付けるやり方すら知らないラインマンもいる」ガルシアは言う。「彼らは大学で(手を付けない)2ポイント・スタンスしかやっていない。プロでは、地面に手を付けてランブロックをやり、同時にパスプロもこなさなければならない。そうしないと、プロの守備は優秀なので、スタンスからプレイを読まれてしまう」
ブロンコスの新しいOLコーチ、ジェフ・デビッドソンは、若い選手にテクニックを指導し、育成するのは、コーチの責任だと語る。
「彼らは真っ白なキャンバスみたいなものだ」デビッドソンは言う。「私には攻撃ラインマンに求める要素がいくつかある。もし、選手にそれが備わっているなら、私は少し喜んで、その選手を育成することができる」
しかし、その喜びや責任はすべてのチームで共有されているわけではない。プロでは一般的に育成よりも、スキームの習得に重点が置かれる。ミーティングは、次の対戦相手に対する準備とゲームプランのために行われる。
新しい言語の指導が議題に上がることは少ない。
「テクニック、能力の向上に関することは少ない。なぜなら、ここにいる人間はその仕事において、選ばれたベストの選手たちだからだ」ポロンバスは言う。「大学では正反対だった。時間の90%をテクニックと能力の向上に費やし、対戦相手やスキームに関することはあまりやらなかった」
ライアン・ハリスはノートルダム大学の出身で、当時のヘッドコーチは、タイロン・ウィリンガムと、チャーリー・ワイスだった。しかし、ハリスのテクニックを鍛え、プロでやれる基礎を与えてくれたのは、OLコーチのJohn Latinaだった。
「たとえワイスの攻撃システムであっても、プレイブックを学ぶ必要はなかった」ハリスは告白する。「大学では2年間、プレイブックを学ぶ必要はなかった。しかし、プロではプレイブックを学ぶだけでなく、それを実践しなければならない。そして、それらは大学での5年間ほとんどやったことのないスキルであり、それをより大きくて速いプロの選手を相手にやらないといけないのだ」
すべてを理解する Putting it all together
最初に出てくる言葉はいつも同じ。プロでもっとも大変だったのは何か、ラインマンに訊いてみるといい。それはハリスの答えと同じになるはずだ。「スピード、スピード、スピード」
試合のスピードは速くなる。プレイがコールされるのも速くなる。守備を読む時間はわずかだ。システムを学ぶ時間は数週間しかなく、プレシーズンの試合が始まるまで、OTAと限られたキャンプしかない。プロの生活に慣れ、(目の前でOLBジャスティン・ヒューストンがQBを狙っていること考えれば)試合に出るのに必要な肉体を造りあげる時間はほとんどない。
スキル・ポジションの選手たちは、自身の運動能力と本能に頼ることができる。守備ラインの選手はわずか10プレイくらいの出場でも、結果を残すことができる。
「攻撃ラインは、58プレイで素晴らしくても、2プレイが悪ければ、最悪のゲームになりかねない」ハリスは言う。「自分が何をやっているのか、何をやるべきなのかを頭の中で理解し、さらに相手がどこから来るのかを理解するのは非常にタフだ。若い選手たちが集まっているシーンを見るが、あれは一緒になって理解しようとしているのだ」
昨年の4月、ブロンコスは5巡でOGコナー・マクガバン(身長6-4、体重306)を指名した。彼にはサイズがあり、ウエイト・ルームのジャンキーで、コーチからそのポテンシャルを望まれていた。しかし昨シーズン、彼は1試合も出場登録されなかった。
彼には何か問題があるのか、チームは彼を気に入っていないのか、彼を指名したのは間違いだったのではないか、外部の考えではそうなるだろう。
NFLでは、どんなポジションの選手であれ、こうした休み時間が与えられることは珍しい。しかし、攻撃ラインの選手にとっては、マクガバンに与えられた1年間の学習期間は普通のことだ。
「2巡や3巡で指名された選手でも1年目は座って学ぶことが多い」ポロンバスは言う。「すぐに先発することを期待されるのは、1巡指名の選手くらいだ」
もしブロンコスがドラフト1巡で攻撃タックルを指名したなら、その選手にとって、指名の喜びは忘れられないものになるはずだ。しかし、その喜びはすぐに消え去り、混乱と疑いの日々に変わるだろう。
それがNFLにおける新人ラインマンの生活だ。経験者の言葉に間違いはない。
おまけ(無駄に長い)
先月、ラムズのOTグレッグ・ロビンソンが、ライオンズにトレード放出されるというニュースがありました。
ロビンソンは2014年の全体2位指名なので、わずか3年後に6巡指名と交換でトレードされるのは、バストという評価も仕方ないのかなと思います。
ロビンソンは、オーバーン大学出身で、大学ではプロとはまったく違う攻撃システムをやっていたそうです。
そのため、優れたサイズと運動能力がありながらも、プロの攻撃システム、テクニックの習得に苦戦し、ミスを繰り返して、試合でもやられまくり、トレードという結果になってしまったという話が書かれていました(ライオンズの攻撃システムなら復活する可能性があるとも言われていますね)
少し前までは「1巡で攻撃ラインマンを指名しておけば失敗は少ない。安パイだ」と言われていました。しかし、近年はけっこうハズレも多くなっています。
その原因として、この記事にも書かれているように、大学のスプレッド攻撃システムがあると指摘されていますね。
エルウェイも前に「大学の攻撃システムが変化したことによって、攻撃ラインのドラフトが難しくなった」と語っていました(最近は1巡でパスラッシャー指名が安パイになっているという記事もありました)
ブロンコスは、今年のドラフト1巡でユタ大学のOTギャレット・ボールズを指名し、1年目からの先発が期待されています。
ボールズはドラフト前、ワンダリック・テスト(IQテスト)の成績が9点と低かったことが明らかになり、プロでやれるのか不安視する声もありました。
指名された時のスピーチでも少し触れていましたけど、ボールズは、学習障害を公言していて、その障害がテストの成績にも影響したことは間違いなさそうです。
旧文部省の定義によりますと「学習障害とは、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである~」となっています。
もっとも数が多いとされる「ディスレクシア(読み書きの障害)」は、文字が逆さまに見えてしまうなどの症状により、うまく読み書きができず、勉強ができないと誤解されてしまったりするようです。
欧米ではけっこうメジャーな障害という印象で、有名人では、俳優のトム・クルーズ、ジョージ・クルーニー、映画監督のスティーブン・スピルバーグ、亡くなったスティーブ・ジョブスなども、ディスレクシアを克服しています。
調べてみたところ、レッドスキンズとブロンコスで活躍した、OGマーク・シュラレスも、ディスレクシアだったことを告白していました。
シュラレスは、プロで12年間プレイして、レッドスキンズで1回、ブロンコスで2回、スーパーボウルに勝利し、ブロンコスの「50周年記念チーム」にも選出されている名選手ですね(引退後もESPNで活躍して最近移籍)
ギャレット・ボールズの学習障害が、どういったタイプなのかは不明ですが、同じ攻撃ラインマンであるマーク・シュラレスが成功していることは(学習障害がハンデになるとしても)努力次第でやれるという証明になるのかなと思います。
さらに、このオフにブロンコスと契約した、RBジャマール・チャールズもディスレクシアを告白しています。
ブロンコスがドラフトの後に、ジャマール・チャールズと契約したのは、単なる偶然なのか、意図があったのかは分かりませんが、ボールズにとっては、チャールズの存在が助けになるかもしれないですね。
ちなみに、 シュラレスと同時期にチーフスとブロンコスで活躍した名選手、DEニール・スミスも著書で学習障害を明らかにしています。最近では、ティム・ティーボウも学習障害であることを語っていました。
はたして、ボールズは1年目から先発するのかどうかー
気になるブロンコスのトレーニング・キャンプは現地27日から開始です!