ブロンコスの話ではないのですが、ドラフト好きとしてはとても面白い記事だったので、紹介してみたいと思います。
先月に出ていたMMQBの記事で、49ersの新GMジョン・リンチに密着し、ドラフト1日目の24時間を時系列に沿って追いかけています。
メインの記事に、少しだけ別の記事から(いくつかの会話や、ルーベン・フォスターの指名に関する部分などを)足しました。
あと、とても長い記事で大変だったので、翻訳も文章も雑です(汗
元記事
Behind the Scenes with GM John Lynch for 49ers Draft | The MMQB with Peter King
San Francisco 49ers draft room during Bears trade, more | The MMQB with Peter King
ドラフトをよく知らない方のために補足説明
この記事ではドラフト1日目(1巡指名)を追いかけており、主に1巡1位~3位の3チームがどう動くか、ということが書かれています。
今年のドラフトには、トップ評価のDEマイルズ・ギャレットという大物選手がおり、1位のブラウンズは彼を指名するだろうと予想されていました。2位の49ersはそんなブラウンズの動向を伺いつつ、トレードダウンで指名権を増やすことも考えて、3位のベアーズ以下と交渉をしている状況になっています。
1位 クリーブランド・ブラウンズ(12位も持っている)
3位 シカゴ・ベアーズ
そして、1巡指名の後半部分では、2巡2位(全体34番目)の指名権を持つ49ersが、LBルーベン・フォスターを指名すべく、トレードアップで1巡に上がろうと奔走している様子が書かれています。
30位 ピッツバーグ・スティーラーズ
31位 シアトル・シーホークス
32位 ニューオリンズ・セインツ
2巡1位 グリーンベイ・パッカーズ
2巡2位 サンフランシスコ・49ers
それでは、記事をどうぞー
4月27日、木曜日
AM 3 : 30 PT(太平洋時間)
「うわあ、早く起きすぎた。もっと眠らないと!」
それが大事な日の朝、ジョン・リンチが最初に考えたことだった。彼はサンタクララ・マリオット・ホテルで目が覚めた。そこはリンチが家族をサンディエゴに置いて、この2か月間宿泊している高価な部屋だ。6時間の睡眠では足りない。8時間は必要だった。彼の師匠であるジョン・エルウェイ(ブロンコスのGM)は、重要なアドバイスをくれていた。「ドラフトが実際に始まるまでは、たいして何も起こらない。だから十分に休め」
リンチは15分間、暗闇の中で目を閉じた。リラックスしようと努めたが、フリをしているのは無駄だと思った。彼の頭はすでに動き始めていた。
AM 3 : 45
外はまだ暗い。リンチは部屋にある机に向かい、ランプの明かりを点けた。机のラックにはホテルのインディックス・カードが置かれている。彼はそれを1枚取って書き始めた。
2
トレードできない
ソロモン・トーマス
2から3
トレード
ソロモン・トーマス
ルーベン・フォスター
「2」とは、49ersが持っている1巡2位の指名で、そこにはトレードできなかった場合に指名する選手が書かれていた。「2から3」には、3位のシカゴ・ベアーズを相手にトレードダウンした場合に指名する選手が書かれていた。
つまり、スタンフォード大学のDTソロモン・トーマスが本命候補であり、彼が消えていた場合は、3位でアラバマ大学のLBルーベン・フォスターを指名することになる。リンチは他のカードにも書いていく。その中には、12位のクリーブランド・ブラウンズとトレードが決まった場合の「2から12」というカードもあった。
忙しい仕事だ。リンチはこの日の始まりに、しっかりと方針を固めておきたかった。ヘッドコーチのカイル・シャナハン、アダム・ピータース(vice president of player personnel)、パラーグ・マラーテ(chief strategy officer)、マーティン・メイヒュー(senior personnel executive)たちと3か月前に合意していた方針。彼はそれ以上テープを見なかった。テープはもう十分に見ている。「ある時点で、それは収穫逓減(ある点を過ぎると、入力の増加が出力の増加に結びつかなくなるという経済用語)になる。全部どかして頭をクリアにする必要があるんだ」
忙しい仕事だ。しばらくして、リンチは横になり、もう少し眠ろうとした。多くの考え、例えば「誰を信用すればいいのか?」といった考えが頭をめぐる。
ブラウンズが全体1位の指名で何をするのか、それを知るのは重要なことだった。この数週間はDEマイルズ・ギャレットを指名すると仮定していた。しかし昨日の遅く、ジョン・エルウェイが電話してきて「流れが変わったかもしれないぞ」と伝えてきた。それは1位でQBミッチェル・トラビスキーが指名されること意味している。リンチはそれが実現してほしかった。そうなったら、49ersは2位で(ボード1位に評価している)ギャレットを指名するか、それをエサにトレードダウンすることができる。もし、来年の1巡指名権といった多くの見返りが貰えるなら、リンチはトレードダウンするだろう。もし2位でギャレットが残っていたら、この日の午後に、大変な決断を下すことになる。
しかし昨夜、寝る直前に、リンチは信頼できる情報源からメールをもらった。そこには「もし1位でQBトラビスキーが指名されたら、ブラウンズのHCヒュー・ジャクソンはショックを受けるだろう」と書かれていた。リンチは横になり、眠ろうと無駄な努力をしながら、1巡指名がどうなるか良く理解していると思っていた。しかし、半日後に何が待っているか、本当の意味では理解していなかった。
AM 5 : 49
眠れず、また起きる。リンチはTweeterで初めてのツイートをした。これまで彼のアカウントでツイートしていたのは代理の人間で、リンチ本人がツイートするのはこれが初めてだった。「GMの友人たちからのアドバイス? ”ドラフトはマラソンだ。休め” そのとおりだ! 私は3時半から起きている。もう始めよう!」
AM 7 : 09
アダム・ピータース(リンチがブロンコスから引き抜いた人事部長)から電話で情報がもたらされる。ブラウンズのオーナーが、HCヒュー・ジャクソンと会い、DEマイルズ・ギャレットの指名が決まったという話だった。もし本当なら、少しがっかりだ。これでギャレットをエサにトレードすることはできなくなった。リンチは落ち込んではいなかった。最初から残っているとは予想していなかった。「ギャレットは(パスするには)良すぎるからね」リンチは言う。
AM 7 : 15
エリオット・ウイリアムズ(director of functional performance)がドアをノックする。リンチが1日3回やっているワークアウト1回目の開始だ。「少しエネルギーを消費しなくては」リンチは言う。15年間の選手生活を終えて、彼の身体はボロボロになっているはずだが、リンチはまるでプレッツェル(結び目のような形をした焼き菓子)のようにストレッチをこなし、プロのトレーナーにでもなれそうだ。その視線はTVで放送しているESPNの「Mike and Mike」に向いたままで、番組では、満場一致でクリーブランドがDEマイルズ・ギャレットを指名するという話をしている。
ワークアウトが終わり、リーバイ・スタジアムにあるオフィスに向かう1.7マイルのジョギングをする前に、最後の仕事がひとつ残っていた。ホテルが用意してくれたチーズのプレートが、2か月間無視されて古くなったまま放置されている。「これは食べられないな」そう言って、リンチはそのプレートをドアの外に置いた。
AM 8 : 18
ホテルからリーバイ・スタジアムへと向かうジョギングの途中でも、リンチはその手を休めない。「ペイトンからナイスなメールが来たよ」走りながら読む。「今夜から週末まで、幸運を祈っている。万事うまく行くように。Pより」
サンノゼ国際空港から数マイル。頭上を行く飛行機の騒音が小さくなると、リンチは電話をかける。
リンチ「ヘイ、カイル」
シャナハン「ヘイ、メン、どうした?」
リンチ「いまホテルからジョギングしてる。運動にね」
シャナハン「それより、あの選手たちをもう一度ワークアウトする前に行かせるつもりなのかい?(49ersはドラフト外FAと契約した後に、数人の選手をカットする予定にしていた)」
リンチ「(少し息を切らしながら)その件はまだやらなくても…月曜にやれば大丈夫らしい。どうやらドラフト外FAの場合、契約して書類を提出するまで、カットしなくても良いんだと思う」
シャナハン「分かった。では9時半に?」
リンチ「そう、9時半に合おう」
リンチは電話を切って説明する。「今年のドラフトは層が厚く、下位で指名したい選手がたくさんいる。彼らは今チームにいる選手たちよりも、ロスターに残るチャンスがあると我々は考えている」
リンチは何度か呼吸した。
「これはトニー・ダンジー(元HC)から学んだことだけど、ロスターの底辺にいる選手であっても、GMとコーチが直接会って解雇を告げると決めている。この仕事をする時に、カイルと話した。自分にはこれまでと違うやり方でしたいことがいくつかある。たとえ末端の選手でも、我々ふたりで選手に会って解雇を告げるべきだと。選手にとって、夢がやぶれるというのはタフなことだからね」
リンチの人生において、妻リンダと4人の子供をサンディエゴに残し、北に460マイルも離れて、ひとりで暮らすのは大きな変化だった。この仕事の話は1月、当時ファルコンズのOCだったシャナハンが、FOXで解説の仕事をしていたリンチに「GM職に興味はないか?」と質問した時に誕生した。実のところ、リンチはフロントの仕事について考えてはいた。「FOXの仕事はとても気に入っていた」彼は言う。「だけど、スコアボードが懐かしかった。誰が勝つか負けるか、そんな世界が懐かしかったんだ」
さらに、リンチの子供たちで、彼の現役時代を覚えているのは高校生の息子ジェイクだけだった。彼は走りながら、なぜこの仕事を受けたのか、そして同時になぜこの仕事を受けるのを悩んだのかを語った。
「タイミングは良くなかった。子供たちは高校生。大変な決断だ。彼らと離れて暮らす。私たちは仲の良い家族なんだ。でも、彼らは "パパ、やりたいんでしょ。やりなよ" と言ってくれた。そして、この仕事は子供たちにとっても良いことなんだと思う。彼らに人生において大事なものを見せることができる」
「こんな話がある。現役生活の終わり頃、ダラスでカウボーイズと対戦した。そこに元FBのダリル "ムース" ジョンストンがいて、練習を見学していた。私は彼とTV局の仕事について話をした。私は "あと何年プレイできるか分からないけど、引退したら家に帰って、しばらくは子供たちの世話をするミスターママをやるのが一番かもしれない" と言った。
すると、ムースは "ああ、私も同じことを考えたよ。だけど、親父に言われたんだ。おまえの子供たちはまだ幼い。子供たちはおまえがどうやって成功したか知らない。子供たちに働いているところを見せるべきだってね"
私はその言葉にショックを受けた。私の子供たちも、息子しか現役時代を知らない。子供たちはただ良い家、良い車があるとしか考えない。仕事をしなければ。そして、素晴らしいことを成し遂げたいなら努力が必要だということを、子供たちに見せる。それは良いことだ」
AM 9 : 35
リンチとシャナハンは、コーチのオフィスに集まった。リンチが書いていたインディックス・カードを使って、ドラフト戦略を再確認する。
シャナハン「自分も今朝、同じことをしたよ」
リンチ「素晴らしい。今夜ドラフト・ルームで、私たちに意見の食い違いがあるところを見せてはいけないからね」
PM 12 : 27
シャナハンのオフィスにて、ピータースとマラーテは1巡1位から2巡2位(49ersの指名順位)まで、知っている情報をすべて吐き出す。
- ベアーズからトレードのオファーが来ている。49ersの1巡2位と交換に、ベアーズの1巡3位と3巡、来年の3巡がもらえる。
- もし49ersが1巡3位でLBルーベン・フォスターを指名した場合、契約の中に何かあった時の条項を付けることが、代理人から保証されている。フォスターは薬物テストのサンプルが薄まっていたことにより不合格になり、コンバインで医療関係者と喧嘩して途中退場を命じられていた。
- シャナハンのオフィスでは、マラーテは窓にもたれながら練習場を眺め、シャナハンはデスク、リンチは部屋の真ん中、そしてピータースがリンチの後ろに座り、意見を出し合っている。その場で、もっとも経験があるのはマラーテだ。彼にとっては17回目のドラフトになる。彼はサラリーキャップを把握しており、トレードにおける指名権の価値を知っている。
これがドラフトの核心だ。他の31チームも今、同じことをしている。 リンチには、ドラフト直前の議論が必要だった。これによりチームの意見は統一され、トレードアップあるいはダウンした場合に何をしたいか、トレードでどんな代償を得られるか、すべてを把握してドラフトに臨むことができる。
49ersは1巡2位と、2巡2位(34番目)の指名権を持っている。そして、その部屋にいる誰もが、このままの順位で指名することになるとは信じていなかった。
リンチ「ベアーズから貰える3巡指名権を使って、2巡2位からどこまで上がれる?」
マラーテ「3巡を出せば、1巡21位まで上がれる。それでも(元から持っている)オリジナルの3巡指名権は残る」
シャナハン「忘れないでくれ。まだ他チームのロスターを確認する時間は残っている。トレードダウンする場合は、相手のチームから契約最終年の選手を付けてもらうこともできる。うちで1年間先発できそうな選手をね」
彼らは、2巡2位から1巡21位前後へのトレードアップを重要だと考えている。なぜなら、彼らが1巡の8位から15位あたりで狙っている選手が、21位に落ちてくるかもしれないからだ。
それは、RBクリスチャン・マカフリー(CARが8位で指名)、WRジョン・ロス(CIN 9位)、エッジラッシャーのチャールズ・ハリス(MIA 22位)、T.J. ワット(PIT 30位)、タカーリスト・マッキンリー(ATL 26位)、あるいは他の誰か、ワイルドカードになるかもしれない。
リンチ「DBジャブリル・ペッパーズ(CLE 25位)も候補になると思う」
シャナハン「我々はこれらの選手を気に入っている。しかし、問題は誰をどこで指名するかだ。もし全員が残っていればトレードダウンして、誰であれ残っている選手を指名して満足できる。だけど、もし全員が消えていたら、誰を指名する?」
ピータース「フロリダ大学のLBジャレッド・デービス(DET 21位)は?」
シャナハン「いいや」
ピータース「ワシントン大学のCBケビン・キング(G.B 2巡1位)は?」
シャナハン「彼はもう少し下で指名したい」
リンチ「トレードダウンでもらえる指名権しだいだが、彼は1巡下位で指名する候補になると思う。1巡指名なら契約に5年目のオプションが付くしね」
シャナハン「もし32位を獲得したら、キングが本命だな」
ピータース「20位台でもアリ?」
シャナハン「個人的に、20位台にトレードアップするかどうかは、たくさんの指名権をもらった場合、それから議論すべきことだと思う。自分は、キングがベストのCBだと知っている。しかし、例えばコロラド大学のCB Ahkello Witherspoon(S.F 3巡)、あるいはウエスト・バージニア大学のCB Rasul Douglas(PHI 3巡)を3巡で指名しても、そこまで大きな差はない」
リンチ「そうは言っても、キングはちょっと違うんじゃないか」
シャナハン「もし1人だけ欲しいなら話は別だ。キングの方が良い。だけど、私たちはできるだけたくさんの選手が欲しい。私は、オハイオ大学のパスラッシャーTarell Basham(IND 3巡)も獲得できたらと願っている。能力の劣っている選手を獲るリスクがあっても、より多くの選手を獲る方が良い」
ランチの前に、LB T.J. ワットが話題に上がる。
リンチ「私は彼を気に入っている。思うに、どこで指名するかは悩みどころだ。たしか彼は2年前までタイトエンドだったし、ビル・ウォルシュ(49ersの殿堂入りHC)の言葉に "ワン・イヤー・ワンダー(1年だけの活躍)には気を付けろ" というのがあった。しかし、J.J. ワットの弟だという血統は安心材料になる。それで間違いないとまでは言えないが、少なくとも我々の目が曇ってないという気持ちにはなれる」
ピータース「逆に言うと、彼はまだ15ヶ月しか守備をやっていない。だから、それだけ伸びしろがあるとも言える。彼は昨年の6月から守備を学び始めたばかりだ」
リンチ「それに、ビル・ウォルシュが言っているのは、3位では指名するなということであって、24位や26位で指名するなということではないと思う」
彼らが去ると、リンチはドラフトを数時間後に控えて、満足そうに見えた。「これは私にとって最初のドラフトであり、我々はオークションを回している。うまく行くかもしれないし、楽しくなるかもしれない。まあでも準備は万端だ」
リンチは、昼食にオムレツ、ベーコン、フルーツを食べ、ワークアウト、ミーティング、短いワークアウトをこなした。
PM 3 : 30
リンチは、CEOのジェド・ヨーク、その父親のジョン・ヨーク、そしてシャナハンを集めると、ジェド・ヨークのオフィスに入るよう促した。そこにはドラフトに参加するジェドの双子の妹たち、ジェナ・ヨークとマラ・ヨークもいた。「私たちのプランを聞いてください」リンチは語り始め、すべてを説明した。観衆は2位から3位へのトレードダウンを気に入った。
PM 3 : 40
ドラフトの1時間前、リンチはスーツに着替える。こうした時のために、妻が選んでくれたグレーのピンストライプのスーツだ。白いシャツ、白いポケットチーフ、黒のローファー、そしてネクタイはジェッド・ヨークが選んだ49ersの赤に白のストライプ。リンチは胸ポケットに何か入っているのを発見した。それは、娘リンダからのメッセージ・カードだった。娘がよくやるイタズラだ。
彼はカードを開いて読んだ。
「この仕事はパパの天職よ。自分の勘を信じて。すべて上手くいくわ」
PM 4 : 57
ドラフトが始まる数分前、ドラフト・ルームに入るリンチは落ち着いている。シャナハンも同じだ。リンチは「朝の3時半と同じように準備オーケー」と笑顔を見せる。2人は直前にオフィスでミーティングを済ませていた。そこでは、リンチの指揮の下、マラーテがシカゴ・ベアーズから追加の指名権を貰うべく交渉していた。
ベアーズはトレードアップの代償として、3巡2つにプラスして、4巡指名権をひとつ渡すことを承諾した。さらに、このトレードには、DEマイルズ・ギャレットが1位で指名された場合にのみ有効という条件が付けられた。もしギャレットが指名されず、49ersの2位に残っていたら、オークションが始まる。そして、49ersは大型トレードか、大型パスラッシャーの指名か、どちらかを行うことになる。
リンチ「ベアーズは誰を指名するんだ? DTソロモン・トーマスだよな?」
マラーテ「クレイジーだと思われるだろうが、おそらくQBミッチェル・トラビスキーだと思う」
リンチ「それなら、なんでベアーズはFAのQBマイク・グレノンと契約したんだ?」
彼らは議論する。そして、3位からさらにトレードダウンする相手を探すことを確認する。もし、ベアーズが2位でDTソロモン・トーマスを指名したら、49ersは3位でLBルーベン・フォスターを指名しても満足だ。しかし、できれば8位までの範囲でトレードダウンして彼を指名したい。なぜなら、それより下まで落ちると、9位のベンガルズがフォスターを指名するだろうと確信していたからだ(リンチは9位のベンガルズ、シャナハンは16位のレイブンズで消えると考えていた)
その部屋には31人の人間がいた。真ん中のテーブルには、頭脳集団(マラーテ、ジェド・ヨーク、シャナハン、リンチ、ピータース、マシュー、ジョン・ヨーク)が右から左に並ぶ。スカウトたちは両サイドのテーブルに座っている。メディカル・スタッフやコーチたちは内側。そして、マイノリティのオーナーたちと、チームに3万ドル(約300万円)を支払って参加しているファン2人はやや後ろに座る。
ドラフト本番が始まる直前、マラーテはベアーズと電話で話していて、リンチはそれを聞いている。
マラーテ「今のところ、良い感じだ。クリーブランドがクレイジーなことをしない。そして、我々が他チームからクレイジーな(たとえば1巡指名権を4個渡すというような)電話をもらわない。このふたつさえ守られれば、トレードは実現する。たぶん大丈夫だろう。代償は3巡(67位)、来年の3巡、今年の4巡(111位)だ。そう、そう、オーケーだね。もうすぐ握手でトレード成立。今はハイファイブしているところだ」
「ところで、誰を指名するのか教えてもらえないかい? 気になって仕方ないんだ」マラーテが尋ねる。その答えは「誰かは言えないが、49ersにとって不都合なことにはならないと思う」というものだった。
PM 5 : 11
1位のブラウンズが、DEマイルズ・ギャレットを指名した。リンチの表情は変わらない。ついに49ersの順番が来た。他チームからトレードの電話がないか、念のためしばらく待つ。3分後、マラーテがベアーズに「オーケー」と伝え、両チームはリーグに確認の電話をかける。これでトレードが成立し、シカゴの順番になった。部屋にあるTVモニターでは、NFL NetworkとESPNが表示されており、NFL Networkでトレードの情報が伝えられると、会場にいるファンから「ううううー」という声が漏れた。リンチの表情は変わらない。
マラーテは、3位からさらにトレードダウンするために、興味のありそうな6チームに電話をかける。「ニューオリンズ(11位)、カロライナ(8位)、クリーブランド(12位)、フィラデルフィア(14位)、ジャクソンビル(4位)、全チームに断られた」とマラーテが告げる。ベアーズが指名すると、その次は49ersだ。
PM 5 : 21
「トラビスキー!」とリンチが言う。彼の表情が変わった。ベアーズは2位でQBミッチェル・トラビスキーを指名して、ドラフトにショックを与えた。
PM5 : 29
3位の指名に動きはない。リンチは待つ。しかし、DEマイルズ・ギャレットが消えてしまっては、トレードアップのオファーは来ない。QBトラビスキーのおかげで、ベアーズとトレードできた。リンチは思う。これで満足しよう。2位で指名するつもりだった選手を、3位で獲得できるうえに、たくさんの指名権までもらった。それに、DTソロモン・トーマスのために指名権を出すチームはいない。トーマスとギャレットは違うのだ。
「指名の電話だ」とリンチが告げる。
ドラフトで幸運を得たばかりだというのに、室内は驚くほどに静かで無感情だった。もし、ベアーズが2位でDTソロモン・トーマスを指名していたら、49ersは3位でLBルーベン・フォスターを指名することになっていた。フォスターはレイ・ルイスのようにプレイする良い選手だが、怪我と素行に不安のある彼を3位で指名したら、ボコボコに非難されていたかもしれない。
誰かがソロモン・トーマスに電話をかける。
リンチ「ソロモン? 私だ。ジョン・リンチだ。調子はどうだ? 49ersの一員になる準備はできてるかい?」
数分後、電話を切ると、リンチは室内に向き直る。
「よし!」リンチは言う。「ソロモン・トーマスに拍手だ!」
10秒から15秒、拍手と口笛が鳴り響く。
「オーケー」おどけたシャナハンが言う。「さて、この後どうする?」
リンチは携帯を見る。
「ブリリアントなトレードだった」ファルコンズのアシスタントGM、スコット・ピオリからのメールを読む。
「グレートなトレードだった」ドルフィンズのマイク・タネンバウムからのメールも読む。
リンチは顔を上げる。「もしDTソロモン・トーマスが消えていたら、LBルーベン・フォスターを指名し、それで満足していた」彼は言う。
PM 6 : 45
ほとんどのドラフトでは、自分の指名が終わると動きは静かになる。しかし、このドラフトでは奇妙なことが起きていた。誰もLBルーベン・フォスターを指名しない。9位のベンガルズは彼を気に入っていたが指名しなかった。11位のセインツもパスした。他のチームがフォスターを伝染病のように扱っていても、リンチを止めることはできない。マラーテ、メイヒュー、ピータース、そしてリンチ自らもが、フォスターを獲得するために、トレードアップの電話をかけ続ける。
16位のレイブンズが指名する前、マラーテはトレードアップの条件を伝える。「レイブンズがもとめている指名権は、こちらの2巡、3巡、それに4巡が2個だ。これで16位にトレードアップするか?」
シャナハン「2巡と3巡、それ以上はやらない」
マラーテ「2巡と3巡だけだと、21位前後までしかアップできない。16位は無理だ」
シャナハン「なら、しなくていい」
「2巡と3巡、それに4巡がひとつ」リンチが折衷案を出す。これだと49ersに残る指名権は、2巡が無し、3巡が1個、4巡も無しになる。マラーテがレイブンズのGMオジー・ニューサムに新しい条件を伝える。それに対して、ニューサムの返事は「2巡、それに3巡を2個」だった。
リンチは「ノー」と即答した。(彼はなぜ「こいつら何を言ってるんだ? さっさと電話を切れ!」と言わなかったのだろう)
電話を切ると、リンチは言う。「オジーには参ったな。俺たちから明日(2巡と3巡)の指名権をすべて取り上げようとするとは」
「2日目こそ、もっとも良い日だ」と、シャナハンが言う。
PM 6 : 53
マラーテが部屋から出ようと立ち上がる。
リンチが「近くにいろ」と注意する。
マラーテ「トイレだ」
リンチ「我慢しろ」
PM 6 : 55
マラーテが部屋を離れたのは、だいたい100秒ほどだった。彼は戻ってくると「17位のレッドスキンズがトレードダウンしたがっているらしい」と告げた。マラーテは、レイブンズに提示したのと同じ条件をレッドスキンズに伝えた。レッドスキンズは動かず、そのままアラバマ大学のDTジョナサン・アレンを指名した。
「電話をかけ続けろ」リンチは言う。
PM 7 : 14
19位のバッカニアーズにも断られた。22位のドルフィンズもそのまま指名する。
PM 7 : 34
マラーテはベテランで、そのトレード交渉はスムーズだ。それに比べると、リンチはかなりぎこちない。23位のジャイアンツが指名する前、リンチはGMのジェリー・リースに電話をかける。「ジェリー、そちらにトレードの余地(amenable)はあるだろうか? こちらの条件は2巡、3巡、4巡なんだが」
彼の使う単語は、スタンフォード大学ぽい。
トレードは断られた。
リンチ「さて何が起きるかな?」
24位のレイダースもそのまま指名する。
31位のシーホークスから連絡があった。
マラーテ「ジョン(シーホークスのGMシュナイダー)、そちらの1巡31位と、こちらの2巡(34番目)と4巡(111番目)でどうだ。ああ、分かってるが、こちらも3巡(67番目)は大事なので渡せない」
シュナイダーには考える時間が必要だった。
「彼はトイレに行きたいそうだ」マラーテが言う「向こうから、かけなおしてくる」
15分が経過した。マラーテが電話する。「まだ話は生きてるか?」
リンチ「トイレはどうだったか訊いてみろ」
シャナハン「長いトイレだった」
まだトレードは決まらない。さらに、何度か連絡する。シーホークスは26位から29位にダウンし、さらに29位から31位にダウンしていて、シュナイダーはトレードのバリューチャートに関して少し混乱していた。
TVでは、コミッショナーが30位の指名を発表している。スティーラーズはLB T.J. ワットを指名した。LBルーベン・フォスターはまだ残っている。
PM 8 : 23
マラーテがまた連絡する。「おい、どうなってるんだ」その表情に苦痛が浮かぶ。「電話を保留にしやがった!」
シュナイダーが電話に戻る。
マラーテ「もうそっちの指名順になってるんだぞ。かけなおしてくれ!」
ドラフト・ルームにいる人々は感じていた。神様からの贈り物。49ersがボードの3番目に評価しており、シャナハンが「今年のドラフトでもっとも気に入っている選手」と語っていたLBルーベン・フォスターがまだ残っている。
PM 8 : 24
電話はまだない。「たぶん無理だろう」マラーテが言う。
PM 8 : 25
リンチがシュナイダーに電話する。
一般的なドラフトのバリュー・チャートによれば、これは公平なトレードで、何も問題はないはずだった。シーホークスの31位は600ポイントの価値があり、49ersが渡す2巡と4巡の指名権は合計で632ポイントの価値がある。
それから約1分後、31位指名の残り時間が80秒になった時、シュナイダーがマラーテに「オーケー、トレードは成立だ」と言った。
マラーテはガッツポーズで「成立だ!」と部屋の人々に伝える。しかし、それで終了ではなかった。そこから両チームはお互い、リーグにトレード成立を連絡しなくてはならない。リーグはそれを確認し、指名順を変更して、その後に49ersは指名する選手の名前が書かれたカードを提出する必要があった。
部屋が興奮に包まれる。誰かが「彼を獲得したぞ!」と叫ぶ。
「まだだ!」マラーテがぴしゃりと言う。「喜ぶのはまだ早い。リーグが正式に指名を確定するまで待つんだ」
リンチが電話を取る。そこから奇妙なやりとりが始まった。
「ルーベン!」リンチが電話で言う「こちらはジョン・リンチだ。49ersの一員になる準備はできてるかい?」
PM 8:28
ドラフトの1巡目は、各チームに10分の持ち時間がある。時計を確認すると、残り19秒だった。もし、その時計が残り0秒になると、次のチームが指名を開始できる。次のチームとは、32位のセインツだった。セインツはLBフォスターを気に入っており、49ersがもっとも警戒していたチームだった。
「やったぞ!」マラーテが言う「カードを提出しろ!」
ドラフト・ルームが噴火した。
誰かが叫び、部屋にいるファンが抱き合う。83人の連中が抱き合い、歓声が上がる。
リンチは電話でLBフォスターと会話しようとしている。
フォスターはTVでドラフトを見ていた。その5分前、彼はセインツのHCショーン・ペイトンから連絡をもらっていた。
「その電話は”君を指名する”という感じになっていた」とフォスターは語った。「コーチが”君のガールフレンドのファーストネームを教えてくれないか?”と言ったので、僕は”アリサです”と答えた。彼は”彼女が隣にいるなら電話を代わってくれないかい?”と言った」
「僕は言われるがまま、彼女に電話を渡した。尊敬するNFLのヘッドコーチの頼みを断るなんて論外だ。僕はただ、コーチと彼女が何を話しているんだろうとナーバスになった。でも、後になって彼女が教えてくれた話では、僕がトラブルに巻き込まれないように彼女に見守ってくれるよう頼んだだけだった」
「彼女が僕に電話をかえすと、そこに着信が来ていた。画面を見ると、カルフォルニアの番号だった」
「それは49ersのGMジョン・リンチだった。彼は”ルーベン、我々は君を指名する”と言った。僕はTVを見た。(放送は現実よりも遅れていて)指名順位はまだ変わっていない。僕は”もう手遅れです。2巡2位(34番目)では無理です。次のセインツが僕を指名します”という感じだった」
リンチは2分間かけて、49ersが31位で彼を指名したことを納得させた。その間もずっとドラフト・ルームは興奮に包まれていた。
フォスターは子供のころから49ersのファンで、高校の時からチームのスター選手であるLBパトリック・ウィリスのファンだった。彼の夢は現実になった。
ドラフト1巡目の最初から最後まで、4時間近くもフルに動くことは珍しい。しかし、49ersはそれをやりとげた。そして、ようやく安堵の時が訪れる。リンチは電話を切ると、スカウト、コーチ、オーナーたち、そこにいる全員とハグをする。
歓声が上がる。リンチは、メディカルのジェフ・ファーガソンに大声で叫ぶ。「フォスターの肩(怪我)は心配だったっけ?」
「なんの肩だって?」ファーガソンが大声で答える。そして、部屋は笑いに包まれた。
PM 10 : 44
リーバイ・スタジアムは閑散としている。2時間前にドラフトは終了し、パーティーは解散した。そして、レストランのプライベート・ルームでは、ドラフトを指揮した男たちが丸テーブルを囲んでいる。リンチ、シャナハン、ピータース、メイヒュー、マラーテ、ジェド・ヨーク、社長のAl Guido、そしてメディアVPのBob Langeだ。
リンチは、リード・オプション・カクテル(リーバイ・スタジアムで売られているカクテル)のタンブラーを持っている。彼はドラフトが終わるまで、酒を飲むつもりはなかった。しかしその夜、リンチが飲んでいないのを見て、シャナハンが声をかける。「カモン、メン、今夜は最高だったろ」
リード・オプション(日本のウイスキー白州、カントン・ジンジャー、イエロー・シャルトリューズ、ザクロ、レモン、アガベが入っている)は、次の一杯を誘う。そして、男たちは食事を楽しむ。
「今どんな気分だ?」誰かがリンチに尋ねる。
「喜びだ」リンチが答える。「今夜、私たちはトップ3に評価していたうちの2人を獲得し、そのうえ明日も明後日も指名権が残っている。この結果がどうなるかは数年後にしか分からない。それでも、ゲームを変えられる大物選手を2人も獲得できた」
「フォスターは相手をたくさんぶちのめすぞ!」シャナハンが加わる。
リンチは続ける。「フォスターと話した時のことを思い出す。私が”君はヒットするのが好きなんだろ?"と尋ねると、彼は"相手に思い知らせてやらないといけないんだ"と答えた。私はその言葉をノートに書いたよ。我々はまだ何も成し遂げていない。だが、我々は間違いなく昨日よりも良いチームになった」
PM 11 : 55
ホテルに戻り、横になる。1日が終わった。もうやることはない。リンチは、まるで夜明け前から始まった20時間の試合をプレイし終えたかのような気分だった。彼は眠りたかった。昨夜よりも多くの睡眠時間が必要だ。
「結果がどうなるにせよ、もはやすべては歴史となった」リンチは思う。
次に彼が思ったこと、それはロバート・レッドフォードの映画「候補者ビル・マッケイ(原題:The Candidate)」で、主人公が勝てると思っていなかった選挙で勝利した後のセリフを思い出させた。
「明日からはどうすればいいんだ?」
おまけ
MMQBの別記事には、49ersの3巡指名のQB C.J. ベサード(アイオワ大学)や、4巡指名のRBジョー・ウィリアムズ(ユタ大学)についても書かれていました。
QB C.J. ベサード(名GMボビー・ベサードの孫)の指名はややリーチだったとも言われていますが、HCカイル・シャナハンは「今年のドラフトで欲しいQBはベサードだけ」と語っていたそうで、「明日の4巡(107番目)まで待つのではなく、今日の3巡(104番目)で指名したら、みんなよく眠れるだろう」ということで、49ersは7巡指名権2つと引き換えに5つトレードアップして指名したそうです。
また、シャナハンはRBジョー・ウィリアムズを高く評価していて、「もし彼を指名できなかったら、一晩中悔やむことになる」と語っていたそうです。
ウィリアムズは、2016年に9試合で1407ヤードを走るなど大活躍していますが、コネチカット大学ではチームメイトのクレジットカードを盗んで放出された過去があり、ユタ大学でも途中でフットボールを辞める(1か月後にコーチに頼まれて復帰)などの問題がありました。そのため、リンチは興味がなく、49ersのドラフトボードから消していました。
しかし、リンチはシャナハンが気に入っているのを知っていたので、最低でもウィリアムズと話だけはしておくべきだろうと考え、土曜の朝に電話します。
リンチは「正直に言うが、私は君を指名する気はないんだ」と伝えます。そして、ふたりは話合い、リンチはウィリアムズの過去について知ることになります。
2007年、ウィリアムズが13歳の時に、姉が心臓の病気で亡くなったのですが、その夜、彼は姉と一緒にいながら寝てしまい、姉が体調を崩して亡くなったことに気がつきませんでした。そのため、姉が亡くなったのは自分のせいだと責めるようになり、双極性障害を患ってしまったのでした。
ユタ大学でも「自分がいるとチームのために良くない」と考えて、それをコーチに伝え、フットボールを辞めていました。
リンチは彼と電話で話した後、その朝に「構うもんか、どうにかトレードアップして彼を指名するぞ」と決め、143番目から121番目にアップして指名したそうです。
ドラフトした選手がどんな結果になるかは、また別の話になると思いますけど、こういった舞台裏の話は面白いですねー